森会長辞任だが

 東京オリンピックパラリンピック組織委員会森喜朗会長がようやく辞任することになった。なんでもっと早く辞めなかったのか、辞められなかったのか、辞めさせられなかったのか。辞めることは決まった今でも新しい会長を誰にするかをはじめとして問題は山積。森氏辞任は問題の決着であるとともに始まりでもある。森氏の財界やIOCとの太いパイプとか、これまでの功績とかを評価すべきだなどという煮え切らない議論が相変わらず幅を利かせている。どんな功績があったのか私などは知る由もないが、たとえ多大な功績があったとしても今回の発言はそれでもって帳消しにできるようなものではないだろう。発言と功績を切り離すようなご都合主義は通用しない。それと、このような功績論による森氏免罪論のほかに、別の理屈による森氏擁護論もあって、私はその理屈のこじつけ方が気になっている。
 例えばブラマヨの吉田はテレビ番組で次のように言った(以下「スポニチ」)。「僕は『そんなことないよ、男性でも話長い人いるし、何言ってはるのかな?』とは思いましたけど『差別だ!』とかはいかなかったです」「そのあと(森会長は)五輪の女性関係者はしっかり話すし、女性の言うことはいつも的を得ているともおっしゃってる。そこは(テレビでは)全然流れない」「その部分な〔は、の誤記か?〕なしで、おかしい、辞めろ!ってなるのはちょっとコロナのイライラをぶつけてもうてるかなと思う」。
 さらに、お笑い芸人の小籔千豊のテレビ番組での発言(以下「東スポ」)。「一部の発言を切り取って、印象を強めようという報道は別に今回だけでない」「僕も最初ネットかなんかで文字見たとき『あ、えらいこと言いはったな』と思ったんですけど、全文読んだら、多分みんな印象代わると思うんですよ」「別に今回だけじゃなくて、どっかの市長の発言も切り取ってバン!って出たら『えらいこと言うたんやな』と。でも全部のこと見たら『そらしゃあないわ』って人、多かったと思うんです。変な発言したから『おい責任とれ! 辞めろ!』っていう空気にするなら、変な切り取り方して、後任決まらへんような状態にした報道の仕方をした人も、辞任とかせなあかんのちゃうかなと」。
 この2人に共通する論理。第一印象では森発言に違和感を持った。しかし、発言の全体を見ると女性差別発言と決めつけることはできない。女性を認めるとも言っているし、特に問題視するべきことを言ったわけではない。女性差別ではないし、しゃあない、という程度のこと。むしろ、女性蔑視だ、差別だと騒ぐほうにこそ問題がある。今回の騒ぎの原因はコロナであり、偏った報道で印象操作をするメディアである。
 なるほど。では、発言全体を見てみよう。以下「スポニチ」掲載の【3日のJOC臨時評議員会での森会長の女性を巡る発言】
 「これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(笑いが起きる)5人います。
 女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまりいうと新聞に悪口かかれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。
 私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。」
 なるほど、なるほど。「テレビがあるからやりにくい」「あまりいうと新聞に悪口かかれる」なんて、森さんは自分の発言が物議をかもすかもしれないと自覚していたことがよく分かる。「文部省がうるさくいう」から仕方ないが、できたら女性理事は少ないほうがよいとおっしゃっている。競争意識の強いのが女性の優れているところなどと、女性を一般化して褒めているとも貶しているともわからない言葉を枕に振りながら、女性を増やしたら発言時間を制限する必要があるというのが言いたいこと。それも出所不明にして自分の責任を回避しつつ。そして最後の、組織委員会の女性云々の弁。ブラマヨ吉田氏はこの部分をもって森擁護論に立っているのだが、私に言わせればまったく逆。この部分こそ極め付きの女性差別発言。「競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々」は「わきまえておられ」「お話もきちんとした的を得」ていて役に立つから認めると言っているのであって、それ以外の女性はわきまえがなくてダメだと言っているのである。世の大多数の女性は国際的に大きな場所など踏んでいないだろう。森氏にとってまともな女性は例外的なのである。さらに言うと、「欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになる」と迷惑そうに付け加えているのを見ると、森氏がほんとうに組織委員会の女性委員を認めているのかも怪しいものであると言わざるを得ない。
 今回の森発言が問題になり批判されたことをコロナのせいにしたり、メディアに責任をなすり付けたりするのは完全なる論点のすり替えに他ならない。一般論としてなら、メディアが情報のすべてを伝えずに一部分を切り取って、興味本位に報道することもないとは言えない。むしろ、よくあることかもしれず、それに対して私たちは常に用心してかかる必要があるだろう。しかし、今回の問題は東京オリンピックパラリンピック組織委員会森会長の発言であって、コロナ禍による国民の気持ちの問題でもメディアのあり方でもないのである。森発言が正しく伝えられていないと考えるのであれば、小藪氏はテレビで発言する機会を与えられているのであるから発言内容の全容を正しく伝え、そのうえでメディアを批判するなり森氏を擁護するなりしたらよいのである。
 それにしても、組織委員会はトップに元総理大臣とか、そんな人物を据えないことには機能しないのか。そこまでオリンピックは政治と金に絡めとられてしまっているのかと、今さらながらではあるが、考え込んでしまう。