オリンピック閉会から1週間経ったが

 オリンピックが終わって1週間が経った。最初の頃は私も卓球混合ダブルス伊藤水谷や柔道阿部兄妹の活躍には、やったね!という感慨も湧いたが、以降は、暇にまかせてテレビのスイッチを入れても退屈することが多く、10分ほどして切るといったことの繰り返しだった。サーフィンやスケートボードなんかは競技自体がよく分からないし、水泳なんかで絶叫するアナウンサーには鼻白むだけだし、選手と恩師や家族との秘話で感動を強要されるのは御免こうむりたいしで、結局、テレビ観戦についやした時間は全体として10時間ぐらいだったろうか。一番長く見たのがゴルフであったというのは不思議であった。というのも、私はゴルフはやったことが全くなく、特に関心もなかったのである。にもかかわらず1時間ほど見入った。単純明快なルールに従って、淡々とボールを飛ばすのが何とはなしに面白かった。パー3のホールを私だったら何打でホールアウトかなど考えても見当がつかない。おそらく50打は必要か。それ以外の競技で真剣に見たのは20キロ競歩。これは、大学の陸上部の後輩(と言うのもおこがましいが)が出るので応援したが、銅メダルであった。
 そして今、日本中がなんとなくジメッとした、そしてモヤッとした、さらにイラッとした気分に蔽われているように感じる。コロナ感染者の記録的増加。オリンピック開催との直接的関係はないと加藤官房長官。うん、そりゃ、外国から来た人が東京中を闊歩してウイルスをばらまいたというような直接的関係はないかもしれない。でも、間接的関係はある。とても密接な間接的関係があるとしか考えられない。ほんとうにこれからどうなることか。政府の無為無策に悪乗りして、外出自粛呼びかけを馬鹿にする気分が日本中に満ちていて、それも分かるが、結局割を食うのは国民だから、やっぱり外に出ないほうがよいだろう。仕方がない。自暴自棄にならず、絶望せずに暮らすしかないのではないか。
 そんな今、東京オリンピックを誘致するのにどのような言葉が使われたのかを改めて見直してみたのだが、とても虚しい。筆頭に挙げるべきは、「立候補ファイル第1巻、テーマ2:大会の全体的なコンセプト」で述べられている「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」の大嘘だろう。これには批判が集中したし、今さら注釈も不要であろうが、ひとつだけ言っておきたいのは、これが日本側からの一方的な嘘ではなくて、IOCも共犯であるという点である。7月8月の東京がパフォーマンスに理想的な気候なんて誰も信じなかったくせに。そしてIOC総会(2013年)でのプレゼンテーション。ここにも虚しい言葉が満ちている。私など(おそらく、多くの日本人にとっても)には理解不可能でIOC委員には自明であるらしい語彙、東京を自画自賛する観光パンフレット的美辞麗句(東京ってそんなに素敵な街なのか)、商業的成功を約束する言い回しなどが並べられていて、現在の、医療崩壊で悶え喘ぎ、安全から遠ざかって行く東京の姿との落差に愕然とする。新型コロナの影も形もなかった時点での、そして東京のアピールを課題としたプレゼンとはいえ、空々しさは覆うべくもない。そして何よりもアスリートファーストの視点が欠如していることに驚かされる。IOC委員の票を得るためにはアスリートファーストはどうでもよかったみたいである。以下に「2020オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書」からいくつか引用して記憶にとどめておきたい。
(1)竹田恆和招致委員会理事長
オリンピック・ムーブメントは 20 年以上も黄金期を謳歌しています。 それは、明確で強固なリーダーシップ、委員の皆様の戦略的な決定、そして、このムーブメントの時間を超えた価値によるものです。
東京の有する3つの強さは、全てのオリンピック・ファミリーに恩恵をもたらします。
・Delivery: なぜなら東京は、万全な大会開催、そしてそれ以上を提供します。
・Celebration: なぜなら東京は、かつてないような、すばらしい都心での祝祭を実現します。
・Innovation: なぜなら東京は、世界中のスポーツに恩恵をもたらすため、東京の有する創造性とテクノロジーのすべてを提供するからです。
(2)水野正人招致委員会専務理事
2020年東京大会は、広大で若いアジア大陸への玄関口となります。40億人以上の人々が暮らし...その中には10億人以上の若者が含まれます。事実、この円の外よりも円の中に、より多くの若者が住んでいることが分かります。
東京は、この重要な市場で皆様のスポーツが成長できる7年間を提供します。2020年東京大会では、ゴールデンタイムにテレビの生中継を見る視聴者の規模は、史上最大となります。最大の地元の観戦チケット市場と...商業面での最大限の成功がもたらされます。
我々の招致はすでに21の企業スポンサーを得ています...
また、JOCは記録的なレベルでのスポンサーシップを獲得しています。
日本の経済界が大会を支援し...そして、IOCが確実に、世界中にオリンピズムを推進するという独自の大変重要なプログラムに集中できるようにします。
(3)猪瀬直樹東京都知事
東京は、ダイナミックでありながら、平和で、信頼のおける、安全で安定した都市です。東京は、世界水準の素晴らしいインフラを有し、それをさらに発展させるため、投資を続けています。そして、若者たちにとっては、世界的なランドマーク(標)である都市です。
(4)滝川クリステル招致"Cool Tokyo"アンバサダー
「おもてなし」という言葉は、なぜ日本人が互いに助け合い、お迎えするお客様のことを大切にするかを示しています。ひとつ簡単な例をご紹介しましょう。
もし皆様が東京で何かを失くしたならば、ほぼ確実にそれは戻ってきます。たとえ現金でも。実際に昨年、現金3,000万ドル以上が、落し物として、東京の警察署に届けられました。
世界を旅する75,000人の旅行者を対象として行った最近の調査によると、東京は世界で最も安全な都市です。この調査ではまた、東京は次の項目においても第1位の評価を受けました。
・公共交通機関
・街中の清潔さ そして、タクシーの運転手の親切さにおいてもです。
あらゆる界隈で、これらの資産を目にするでしょう。東洋の伝統的な文化...
そして最高級の西洋的なショッピングやレストランが、世界で最もミシュランの星が多い街にあり...全てが、未来的な都市の景観に組み込まれています。
(5)太田雄貴選手
想像してみてください...東京という都市のまさに中心で生活することを。
目覚めれば素晴らしい水辺の景色があることを...寝室から見える競技会場で競技す
ることを...すぐ近くには、若者文化の世界的な中心である最もクールな地区。
(6)安倍晋三総理大臣
委員長、ならびにIOC委員の皆様、東京で、この今も、そして2020年を迎えても世界有数の安全な都市、東京で大会を開けますならば、それは私どもにとってこのうえない名誉となるでありましょう。
フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。
きょう、東京を選ぶということ。それはオリンピック運動の信奉者を、情熱と、誇りに満ち、強固な信奉者を、選ぶことにほかなりません。スポーツの力によって、世界をより良い場所にせんとするためIOCとともに働くことを、強くこいねがう、そういう国を選ぶことを意味するのです。