なぜか山口

 とくに意図はないのだが、今年は2回も山口県に出かけた。春には角島、秋吉台秋芳洞、秋には湯田温泉から瑠璃光寺。昨年の1月には小倉競馬場に行った際に下関に泊まっているので、それも入れれば、この2年間に山口の土を3回踏んだことになる。ちなみに、私が住んでいる京都・滋賀のすぐ隣の大阪にはこの数年間で、新大阪駅構内を乗り換えのために歩いたのを除いては一度も行ったことがない。昔はコンサートを聴きによく行ったものだが、今はとんとご無沙汰しているのが大阪。
 ちなみついでに言うと、旅行会社の旅費と宿泊をセットにした格安切符とかJR西日本の企画切符を使って京都から西へ向かって旅行する場合、京都から新幹線に乗ってそのまま、例えば博多まで行くということができない。新幹線は新大阪からしか利用できなくなっていて、在来線で新大阪まで行って新幹線に乗り換えるという手間を強いられる。これは、新大阪までがJR東海東海道新幹線)、以西がJR西日本山陽新幹線)の管轄であることと関係があるのだろうが、私のように京都から乗る人間にとっては不便。JR全体をカバーしているフルムーン夫婦グリーンパスはそうではなく、京都から乗り換えなしで新大阪以西へも新幹線一本で行けるのではあるが、こちらはこちらで「のぞみ」利用不可というネックがあって、1時間に1本しかない「ひかり」を使わざるを得なくなり(新大阪からだと「のぞみ」に乗れないのは同じだが、「さくら」があるので選択肢は増える)、やや不便。まあ、企画切符は割安になっている分、何らかの不便がつきものということか。
 で、この秋の旅行はJR西日本「西なびグリーンパス」3日間用を使い、京都から在来線、新大阪で新幹線に乗り換えて岡山へ。伯備線で安来まで行き足立美術館を見物、それから松江でお城近辺をぶらつき、小泉八雲の記念館と旧居を見学し、しんじ湖温泉で宿泊。翌日は出雲大社にお参りしてから益田、津和野に寄り道し、湯田温泉まで出て宿泊というルートであった。
 湯田温泉に着いた夜から雨が降り出し、翌日もあいにくの天気。傘を差しながらの散策であったが、印象に残る一日となった。まず訪れたのが中原中也記念館。湯田市街地のど真ん中、中也生誕の地に1994年に開館したこのミュージアムはとても近代的で瀟洒なたたずまい。人間としては決して幸せでなかったが、詩人としてはモダンであった中也を顕彰するにふさわしい建物と言えるかもしれない。入館料330円のところ、70才以上の私は無料。パンフレットまでいただいて恐縮するしかない。2021年2月から22年2月までのテーマ展示は「君に会ひたい。―中原中也の友情」となっていて、中也と交流のあった人たちに関する資料が並んでいる。しばしば気まぐれでわがままでもあった中也の友だちでいることは大変だったろうと私なんかは思うのだけれど、魅力もまた大きかったのかな。小林秀雄河上徹太郎大岡昇平などビッグネーム以外にも様々な人たちが彼の近くにいた。中也自身は孤独をかこつことが多かったが(そんな詩が多い)、いつも誰かが彼の周囲にいたようだし、死後の名声はそういった人達の尽力が大きかったのだと感じさせられる展示であった。もう一度、中也の詩をじっくり読んでから再訪したいと思いながら記念館を出た。
 次に向かったのは瑠璃光寺湯田温泉から県庁前までバスで10分少々。そこから徒歩で更に10分。そぼ降る雨のもとで見る瑠璃光寺五重塔はひとしお鮮やかに輝いて、などと言うつもりは全くない。ほんとうは秋晴れの光の中で見たかった。しかし、雨の中でも素敵な五重塔であった。下がその写真。

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 今年の春には先にも書いたように、角島、秋吉台秋芳洞を訪ねたのであるが、角島には5年前の夏にも萩から下関へ行く途中で立ち寄っており、今年4月は2回目になる。5年前に見た海の色はコバルトブルーであったけれど、今年はそれほど明るい青色でなく、むしろ藍色というべき色であった。8月と4月の違いか。季節によって海の色が変化するというのは本当らしい。下の写真2枚は5年前の夏、コバルトブルーの海。角島大橋を渡るバスの車内から撮影したもの。

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 5年前は立ち寄っただけなので、次回来ることがあればぜひ角島大橋を見渡すホテルに泊まろうと思っていた。それで今年の春は西長門リゾートホテルに宿泊した。下がそのホテルから角島大橋をとった写真。一見、海の色がコバルトブルーに見えないでもないが、これは浅瀬だけで、全体はやはり藍色である。

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 今年も5年前も角島へはJRの特牛(こっとい)駅で下車し、角島大橋をバスで渡った。このバスの便がとても少ない。この春、私が利用した交通は次のようだった。行きは、JR山陰線で12時ちょうどに下関発、小串乗り換えで13:56特牛着、14:28特牛駅前発のバスで15:00角島の灯台公園前着。ここまではいいとして、灯台公園前から戻りの次のバスがなんと17:09発で2時間以上ある。灯台に上り、付近を散策するのに30分もあれば十分なことは5年前の経験から分かっていたが、JRとバスの組み合わせとしては他に選択肢がなかった。長時間バスを待つか、それともタクシーを呼ぶしかない。急ぐ旅でもなし、早くホテルに着いてもすることもなし、天気もいいしというわけで、1時間以上バスを待つことにした。他に誰もいないバス停の近くで家内と二人で石蹴りなどするが、爺さん婆さんでは子供ほど夢中になれるはずもなく、すぐに飽きて、へたり込む。これも旅か。
 さて、先日の秋の旅では、瑠璃光寺からの帰路は最初に県庁前から来た道を戻らず、小川(今調べたら「一の坂川」という名前である)沿いにしつらえられた遊歩道があったのでそちらを選んだ。この、よく整備された道を5分ほど行くとバスも通っている広い道路に出てきたが、ウェブで調べると、そこから15分も歩けば上山口駅にたどり着けるらしいことが分かったので、そのまま歩き続け、ちょっと迷いながらも無事に上山口駅に到着。これがとても小さな駅で駅舎もないことにびっくり。市街地の真ん中にあって、近くには日赤病院とか大きな私立学校もあるのに、周囲に数件の家屋とか草地などしか見かけない過疎地域の駅かと見まがう作り。ホームの上にプレハブの屋根囲いと椅子が4脚と切符の自販機だけ。帰宅後調べてみたら、1953年に日赤前仮乗降場として設置されたのが始まりとある。なるほどそういうことであったのかと納得。要するに山口駅のおまけとして1キロほど離れた所にできた駅なのである。現在の1日当たりの乗降客数は130人前後とか。またまた納得。私たちのような観光客が利用するって珍しいことだったのかもしれないと、愚にもつかない感慨をいだく。ともあれ、40分ほど待って次の列車に乗り、山口駅で乗り換え、新山口駅へ。
 京都に帰りついて地下鉄に乗っていると東福寺ライトアップ夜間特別拝観の釣り広告が目にとまった。完全予約制で拝観料3000円。同寺境内の通天橋入場料が通常600円で紅葉の季節は1000円に上がり、これも結構高いと思うが、夜の3000円は高すぎるのではないか。高いと言えば、有名どころでは京都八瀬の瑠璃光院の2000円なんかもそうだと私は思う。窓いっぱいに広がる新緑や紅葉の写真で全国的に知名度が上がりすぎて、思いあがっているのではないか。なんで京都の寺の拝観料はこんなに高いのか。しかも、紅葉の季節などは人があふれかえってゆっくりと景色を楽しむこともできない(ことが多いらしい)というのに。京都を訪れた人たちに対して失礼ではないか。交通費と宿泊費に何万円も使ってせっかく京都に来たのだから2000円3000円の拝観料をけちっても仕方がないという観光客の心理につけ入った商法と言われても仕方がなかろう。その点、瑠璃光寺は無料で五重塔の下まで行けるし、よいお寺でありました。必ずしも、敷地が狭いので入場料を取っても意味がない(外からでも塔は見える)から無料にしているのではないと思う。瑠璃光寺と瑠璃光院。一字違いで大きな違い。また近々山口に行きそうな気がしてきた。