都道府県魅力度ランキング?

 ブランド総合研究所という民間シンクタンクの公表した「地域ブランド調査2021」というレポートがちょっとした話題になっている。あるいは、ちょっとした物議を醸していると言っていいかもしれない。このレポートのなかに「都道府県魅力度ランキング」という項目があって、日本の47都道府県の魅力度なるものが1位北海道(73.4ポイント)から47位茨城県(11.6ポイント)まで順序付けられている。
 これを見て心穏やかでないのが下位にランク付けされた県の知事さんたち。茨城県は2013年から2019年まで7年連続で最下位となり、昨年は42位と最下位を脱出したものの、今年はまたもや定位置(?)に逆戻り。大井川知事は2年前には「県のイメージを著しく損なっている」と怒りをあらわにし、「この調査がどのような方法で行われているのか精査し、適切な対応を考えたい」とのコメントを発表した。今年の結果に対しては、知事は「真摯に受け止めるが、ランキングは賞味期限切れでは」と発言。さらに週末の観光地のにぎわいや企業誘致の成果を挙げつつ「今までとやることは変わらない。県民にはこれからも茨城が素晴らしいと主張してほしい」と強調したと報道されている。そうむきになることもないかと、少し余裕が出てきたのかもしれない。
 栃木県は昨年最下位になり、それを受けて福田知事がブランド総合研究所まで出向いて直談判し、調査方法の見直しを要請した経緯がある。研究所側は今回、都道府県版の各地域のサンプル数をそれまで約600人であったのを約1000人に増やした。それが奏功したのかどうかは分からないが、今年、栃木は41位という結果であった。知事は「調査の結果にかかわらず、地域資源の磨き上げや情報発信に取り組み、ブランド力向上を図る」と無難なコメントを出した。
 調査結果にもっとも敵意をあらわにしているのが群馬県の山本知事。群馬は昨年40位からことしは44位へ。知事は以前から北関東の県が下位に並ぶランキングを疑問視しており、県庁内に検証チームを作り、調査手法などを分析。統計学的な見地などから「緻密さを欠く、ずさんで不正確なもの」「県に魅力がないとの誤った認識が広まる」「ランキングを出すなら、結果について説明責任を果たすべきだ」と批判していた。直近(10月14日)の会見でも「主要メディアにも取り上げられており、無視できない。ランキングがずさんで信頼度が低いことを県民や国民に正確に理解してもらうため、(法的措置が)有効なら可能性の一つとして検討している」と述べている。これに対し、ブランド総合研究所の田中社長は「ランキングの根拠については報告書の中ですべて開示しているし、都道府県から問い合わせを受けた際は回答しているが、群馬県からは質問も相談もない。それで、信頼できない、ずさん、などと言われ、報道しないよう圧力をかけるのは知事としていかがなものか」「我々や回答者に対する誹謗中傷だ。謝罪をお願いしたい」と反論しているとか。私は群馬県に縁もゆかりもないし、野次馬として面白がっているにすぎないけれど、ここは山本知事のほうに軍配を挙げたい。知事の指摘はもっともである。このランキングは全然緻密でもないし、不正確である。検証チームを作るまでもなかろう。
 ブランド総合研究所の説明によれば、「地域ブランド調査2021」全体は、1000の市区町村と47の都道府県、合計1047地域を対象としたアンケート調査で、「認知(地域が知られているか)」「魅力(地域がどのように評価されているか)」という2つの大きな指標に基づいて89項目を設定している。「魅力度」では、その地域が魅力的かどうかを問い、さらにその魅力が何に起因するかを、居住意欲度、観光意欲度、産品購入意欲度、またイメージ想起率といった様々な項目を設け明らかにしている、ということである。インターネットを利用し、有効回収数35489人。
 今回問題になっているのは89項目のうちの1項目で、設問は「以下の自治体について、どの程度魅力を感じますか?」である。選択肢は「とても魅力的」「やや魅力的」「どちらでもない」「あまり魅力を感じない」「全く魅力的でない」の5択(以下①②③④⑤とする)。①100ポイント、②50ポイント、③④⑤はすべて0ポイントで換算して、得点を出すことになっている。北海道の回答率は①57.6%、②31.5%、③④⑤10.9%であった。得点化すれば、(100×57.6+50×31.5+0×10.9)÷100=73.35。四捨五入して73.4となる。めでたく第1位。では茨城県の回答分布はどうなのか。私が調べた限りネット上では知ることができない。そこで、私が適当に数値をあてはめ、11.6を追及した(計算の都合上11.5になるが)。
可能性(1)①0%、②23%、③④⑤77%
可能性(2)①2%、②19%、③④⑤79%
可能性(3)①4%、②15%、③④⑤81%
可能性(4)①10%、②3%、③④⑤87%
(1)と(4)は非現実的であり、(2)か(3)が妥当な数値ではなかろうか。しかし、いずれにせよ「とても魅力的」「やや魅力的」と思う人が2割程度いて、大半の人が判断がつかない(「どちらでもない」)か、魅力的だと思わないのである。北海道について89.1%が魅力的と答えているのと好対照である。
 さて、何がおかしいか。私が問題だと思うのは以下の2点である。
◆「以下の自治体について、どの程度魅力を感じますか」というたった一つの項目           に対する回答を取り上げているに過ぎない。あまりにも単純化し過ぎている。「その魅力が何に起因するかを、居住意欲度、観光意欲度、産品購入意欲度、またイメージ想起率といった様々な項目を設け明らかにしている」とうたっているのである以上、クロス集計をしているはずなのだが、今回の発表では様々な項目と魅力度との関連が分からない。上位10位の都道府県は北海道、京都、沖縄、東京、大阪、神奈川、福岡、長崎、奈良、長野となっていて、これを見る限り、結局、自然や歴史遺産などの観光資源に恵まれている地域か大都会が選ばれているのである。それ以外の要素でどんな点が魅力的か、魅力度の低い県は何が足りないのか、といった点が不明のままである。魅力がないよと言われた県だって何を参考にしたらよいのか困るだろう。
◆魅力的であるとの回答にしかポイントを与えていない。多くの回答が出ると考えられる「どちらでもない」をゼロポイントにすることによって数値の極端化が生じる。その結果1位73.4、47位11.6という数値がはじき出され、あたかも茨城県の魅力が北海道の6分の1とか7分の1しかないといった錯覚(数字のマジック)が生まれる。数値の極端化により差異を際立たせることがむしろねらいであったかもしれないが、「どちらでもない」を「全く魅力的でない」と同じに扱うのは統計上やはりおかしいのではないか。
 このように、抽象的に魅力を問う一つの項目だけを取り出し、その極端化された数値結果を公表することに、私は、悪意とまではいわないが、作為を感じる。作為とは、ずばり販売戦略である。今回のアンケート調査結果はいろいろな形で販売されている。1047地域89項目を扱う「総合報告書」81400円、ひとつの地域の詳細な結果を扱う「個別報告書」50600円、個別報告書1047冊分の完全版「データパック1047」316800円などである。田中社長の「ランキングの根拠については報告書の中ですべて開示しているし、都道府県から問い合わせを受けた際は回答しているが、群馬県からは質問も相談もない。それで、信頼できない、ずさん、などと言われ・・・」という発言の意味は、これらの報告書を買って読んでください、そうすれば群馬県に何が足りないかが分かりますから、そして魅力を生み出す努力をしてください、私たちはそれを側面援助するのです、ということなのではないか。
 群馬県山本知事ほどでなくとも、魅力度が低いとランク付けされた県の知事さんのなかには我が県をそんなに馬鹿にするなと不快な思いをしている人がたくさんいるのではないか。また、我が県はそんなに魅力がないのかと不安にもなるのではないか。そして、アンケート調査の詳しい内容を知りたいとも思うのではないか。知事さんに限らず、また都道府県に限らず、地方公共団体の関係者、とりわけ町づくりとか町起こしなどにたずさわっている人たちは今回のような騒ぎに無関心でいられないはずである。もしかしたらアンケート結果が役に立つかもしれない、参考にすべきでは、これにまわす予算まだあったかな、などといった思いがきざしてくる。そのようにして調査報告書の売れる下地が完成し、ブランド総合研究所としてはしめしめ。都道府県別魅力度を取り上げてくれたマスメディアに感謝。いち早く反応してくれた知事さんたちにも(ある意味で)感謝。でも、やっぱりなあ、と最後に私は思う。一民間シンクタンクの一項目のアンケート結果をセンセーショナルに取り上げるマスメディアって私以上にくだらない野次馬ではないか。